一酸化窒素
NO

大気汚染物質であるNOxを構成する分子でもあるのですが、生理活性物質として生体内のほとんどの組織で合成・調節され、生命現象を修飾する細胞間メッセンジャーとしてはたらいています。
1980年ニューヨーク市立大学教授のファーチゴットらは、血管を弛緩させるEDRF(endthelium-derived relaxing factor 内皮由来弛緩因子)の存在を発表しましたが、1987年にイギリスの薬理学者のモンカダらがEDRFこそNOであると"Nature"に発表しました。また一方で、マサチューセッツ工科大学のタネンバーム博士はマクロファージからNOが出ていることを突き止めました。一過性・大量に産生されるNOは、外敵に対する生体防御反応を担っており、細胞障害作用も併せ持っています。さらに、末梢神経の終末からNOが出されることにより平滑筋が弛緩するという現象も見つかっており、脳の学習にもNOが関与していることも分かってきました。
NOは不安定な不対電子を一つ持つフリーラジカルで,半滅期は3−6秒程度、反応する相手のないところで数十秒〜数分と考えられています。標的細胞がその近傍細胞や産生細胞自身ですので、autacoidに分類されています。NOを合成する酵素(NOS)には、3種類の型が知られています。神経型NOS(nNOS)が合成するNOは,神経系の伝達物質として、中枢神経系で働くとともに消化器系や心血管系での神経調節に関与しています。内皮型NOS(eNOS)により合成されるNOは,血管トーヌス(緊張)の調節,抗血栓作用,血管平滑筋の増殖抑制作用などを持っています。このnNOSとeNOSは神経系や血管内皮の細胞中に常に存在しており、構成型NOS(cNOS)とも呼ばれています。これに対して三つ目の誘導型NOS(iNOS)は,適常は発現していませんが、炎症性サイトカインなどによって広範な組織で誘導され、一過性に大量に産生されて生体防御反応に関わっています。この発現が過剰になると生体に障害的に作用するようになり、敗血症性ショック・心筋炎・急性腎不全・慢性腎不全・糖尿病・潰瘍性大腸炎・慢性関節りウマチなど多くの病態に関わっていると考えられています。
NOの臨床への応用としては、肺高血圧症にNOの吸入療法が行われています。NOがガス交換をする肺の血管だけを拡げ血液の流れをよくしてくれるのです。また、1879年以来、狭心症の発作を抑えるのに用いられてきたニトログリセリンは、体内でNOを放出し、これが生体内で作られたNOと同様の作用をすることによって血管の平滑筋を弛緩させるという事がわかりました。ニトログリセリンは耐性ができやすい問題点があるため、現在新薬の研究が進んでいます。また、細胞障害をおこすiNOSを抑える薬剤の研究も注目を集めています。

1997年06月24日 掲載
2008年06月02日 更新
山本重明